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田んぼにしっかりと水を蓄えてくれた昨日の雨も上がり、今日は雲ひとつない快晴。
「おーい やっちゃん田んぼの代掻きするぞ!
水のたまり具合がちょうどええんでー! すぐ行くぞ-!」
朝早く、お隣りの吉田さんの声。
百姓仕事は自然任せ、作業のタイミングも作業内容もおてんとうさん次第です。
長男謙雄と研修生とわたし、吉田さんの声が終わらないうちに田んぼに向かいます。

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わらの田んぼは一枚一枚が小さいので手間のかかる作業が多く、どうしても地面に凹凸ができてしまい水平になりません。
そこで登場するのが吉田さんお手製木製のハシゴです。
それを田んぼの中に入れ、引っ張って水田の表面を水平にならそうとしますが、水が多すぎてハシゴが浮いてしまい泥の移動がうまくいきません。
そこで、謙雄は重さのある栗材の古い柱を持ってきてはしごの上に乗せました。すると、ちょうどいい加減の重さになって地面を水平にすることができるようになりました。
これも吉田さんから教わった事のひとつです。

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この地に生まれ、この地に育ち50年以上も農業してきた吉田のおじさんさんは、わらの農業、林業、田舎暮らしの師匠です。
本や座学ではわからない鍬や鎌の使い方のコツ、あしたの天気の見方、アクシデントの対処法などなど…経験を積んだ者にしかわからないことを教えてくれます。
今では吉田さんなくして、わらの農業も林業も成り立ちません。
七十歳を超えた今も、気力体力腕力も桁違いのスーパーおじさんです!!!

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このようにあらゆる場面で生きる力と智慧をもつ吉田さんが、一番近いご近所さんだったことは、わらに来てからの何よりの大きな財産です。
30数年前、わたしたちは偶然のようにこの地に出逢い、
偶然のように吉田さんのお隣に住めたこと、
この出逢いは、考えても考えても必然性があり、与えられたものとしか思えないのです。
吉田さんから私へ伝えていただいた知恵を、私の子どもたちや研修生に、そして未来につなげていきたいと思う気持ちが、わたしのこれまでの軌跡をつくってきたのだと、今、そう感じます。
わたしが経験した失敗も成功も、
目に見えるものも、見えないものもすべて、未来のいのちへバトンタッチしていければと思うのです。
田んぼの中で、日に焼けた吉田さんの顔を見ながら、
わたしが知らない時代の知恵者から脈々と受け継いできた大いなる宝ものに思いを馳せました。

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