「私は何のために生まれてきたのだろう。」
「本当は何をしたいのだろう。」
「なぜこの時代に生まれてきたんだろう。」
「何が私を生かしてくれているのだろうか 。」
生まれたときから病弱で、多くの時間を病院通いに費やして、スポーツも体を動かすことも苦手な上、勉強も好きではない子ども時代を過ごしていた私は、人一倍、「健康」や「幸福」 ということに意識が向いていました。
そんな私が二十歳の時にマクロビオティックに出会い、「食べ物が命を作り、直接健康につながる。」ということを実感しました。
食べ物を変えることでどんどん体調は良くなり、生まれて初めて、目覚めの時の爽快感を味わうことができました。
しかし一方で、美味しくて楽しいはずの食事から、「美味しいなあ。嬉しいなあ。」という喜びがだんだんなくなり、食べることが大好きだった私は、心の底から笑っていないことに気がつきました。
マクロビオティックという食事法には、絶対的な信頼を持っていましたが、同時に続けることに疑問を持ち始めました。
そんな時、重ね煮の考案者小川法慶先生との運命的な出会いに恵まれました。
小川先生は、
これが、食べ物を通して健康で幸福であるための三つの条件だと教えてくださいました。
それまでの私は、一に健康、二に健康、三に健康、健康こそが、幸せの原点であり、その実現のため、我慢して、正しい食事を続けていたのでした。
「正しいこと = 幸せ」
だと信じていた私にとって、とても新鮮で心にしみる言葉でした。
後に、玄米と重ね煮の料理を提供する宿「わら」を開業して以来のモットーは、「美味しく、楽しく、ありがたく」になりました。
幸せの根源は、「満足、これで十分だ。」と感じることです。
小川先生の重ね煮を初めて食べた時の衝撃は、食に対する考え方ばかりか、人生観をも変えてしまうような出来事でした。
とにかく美味しかった。そして食べた瞬間、暖かさと優しさに包み込まれたように感じました。
「この料理をこの重ね煮をこの小川先生から学びたい!」
気が付けば、内弟子として小川先生の家に住み込み修行させてもらっていました。
そこで学んだことは、まず掃除。
家の周りの環境整備、野菜作り、包丁の持ち方、切り方、研ぎ方、料理する時の立ち位置姿勢。
ただひたすら日常生活の当たり前の仕事に向き合うこと、そして料理三昧の日々でした。
マクロビオティックの基礎理論、 陰陽論を学ぶ前に、まずは料理、掃除、堆肥作り、食べ物を育てること、手や体を使い丁寧に一つ一つの仕事に想いを込めて実践する勘を養い、生きる力を身につけることを教えていただきました。
そして、もう還暦を過ぎていらっしゃる小川先生から学ばせていただいた一番大きな宝は、先生自体の生き方そのものでした。
とにかく無邪気。いつもニコニコ笑顔でご機嫌。子どもが大好き。
笑う時は、大きな声で豪快に体中で笑っていました。
そんな小川先生を見て、自分も年を取ったらこんな可愛いおじいちゃんになりたいと、心から思いました。
今、私は出会った時の小川先生と同じ還暦を過ぎました。
重ね煮に出会って40年、 わらを始めて30年が経ち、その間、「美味しく、楽しく、ありがたく」の理念を柱に生きてきました。私と寝食を共にしながら多くを学び、わらを巣立っていった研修生は、200名を超えました。ありがたいことです。
その人達になぜわらに研修に来たのかと尋ねると、
「(私が)いつも楽しそうに生きている。人生そのものを面白がって生きている。そして何よりわらの食事と重ね煮が美味しいから。」
と答えてくれます。
わらでは、陰陽論、無双原理、東洋医学の哲学、ガイア理論を学ぶ前に、まず、料理です。
そして、合成洗剤を使わず、自然に迷惑をかけない掃除や洗濯、家を建てること、種をまき、お米を作ること、野菜を作ること、山で木を切り薪を作りお風呂を焚くこと、体を動かし、日々の暮らしを丁寧に生きる。笑顔で自分たちの作った美味しいものを一緒に食べ、ぐっすり眠り爽やかな朝を迎える。
おはようからおやすみまでの日々の暮らしの中にある、小さな幸せを感じることこそ、
「人は何のために生きているのか」の答えのような気がします。
「本当は何をしたいんだろう。」
「なぜこの時代に生まれてきたのだろう。」
私たちの体は、間違いなく100%食べ物で出来ています。
しかし、私たち人間は、最高の材料、食べ物だけでは幸せにはなれないのです。
なぜなら私たちの体は、「食べ物」+「今まで考えてきたこと」の結果なのですから。
だから私が大切にしてきたことは、素材に、そしてその素材を与えてくれた太陽、空気、水、土、自然そのものに感謝すること。この40年間、料理する時も、食べる時も、一日たりとも一度も欠かすことなく言い続けたきた言葉があります。
「天地のお恵みと、これを作られた方のご愛念を感謝して、料理させていただきます。この食べ物が、私たちの体の中に入って、自他共にお役に立ちますように。」
私たちが、美味しく、楽しく、ありがたく、幸せを感じながら生きる時に、難しい理論も知識も、高度なテクニックも、特別な環境も、必要ありません。
幸せを感じるのも、味わうのも私たち自身なのです。幸せは、誰でもできることをやり続けること、それだけでいいのです。
私の人生の中心には、いつも重ね煮がありました。そして祈りと感謝がありました。そのおかげで揺るぎない安心感やぶれない軸、そして何より「幸せだなあ」と思える時間が増えました。
こんな日常の暮らしの中にある幸福感を味わって欲しい。
私が小川先生から学ばせていただき、研修生にも繋いできたことを、わらまで来なくても伝えることのできる物を残したい。
今回、御縁あって信頼できる仲間が集まり、最高のチームで私の料理人生の集大成とも言える動画ができました。
私が40年続けてきた重ね煮という料理を、今私自身が実感している健康と幸福の道標を、伝えたい残したい。
このわらの重ね煮が皆様のお役に立ちますように。
ありがとうございます。
船越康弘